【東京外大(連載最終章)】日本のルワンダ研究における最新情報
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▼連載をはじめから▼

 

クラウドファンディングも残りわずかとなりました。今回は、日本のルワンダ研究について、最新情報をお伝えします。私自身ここ20年ほどルワンダ研究をやってきて、もうしばらく現役でいたいと思っていますが、力のある若手が出てきました。

 

5月最終週の週末は、例年日本アフリカ学会の学術大会が開催されます。日本アフリカ学会とは、日本のアフリカ研究者が一堂に会する学術団体で、1964年に設立されました。現在、会員数は800人を超えています。今年は、26日(土)、27日(日)に北海道大学で開催されました。学会史上初めての北海道開催です。札幌は、東京に比べると季節を1か月ほど巻き戻した感じ。北大キャンパスをゆっくり歩くのは初めてでしたが、新緑がとても鮮やかで感激しました。

 

日本アフリカ学会会場。北大キャンパスの入り口にほど近いところでした。

 

大会には300人以上が参加し、発表は口頭、ポスター合わせて170近くありました。懇親会も大変な賑わい。大会実行委員会の皆さんに心から感謝です。

 

そのなかで、ルワンダに関する2人の若手研究者の報告に印象付けられました。近藤有希子さん(日本学術振興会/同志社大学)は、「『書く』という出来事―ルワンダにおける植民地的近代の暴力への拒否と寡黙さについて」と題した報告のなかで、自身が調査のなかで遭遇した経験をもとに、人々の日常的な抵抗について論じました。調査ノートをとろうとして激しく拒絶された経験から、「紙に書きつける」行為と植民地期以降の統治に伴う暴力との連続性を明らかにし、人々の寡黙さのなかにそれへの抵抗を読み取るという内容でした。

 

キャンパスのなかに川が流れている。美しいキャンパスです。

 

片山夏紀さん(東京大学/日本学術振興会特別研究員)は、報告「赦すこと、赦し合うこと―ルワンダ・ジェノサイド後ガチャチャ裁判の賠償を中心に」のなかで、ガチャチャ裁判の賠償をめぐって用いられる「赦す」というルワンダ語の意味内容を検討しました。ガチャチャ裁判とは、ジェノサイドの加害者を裁くための制度で、普通の村人が同じコミュニティの人々の証言に基づいて、加害者に判決を下します。盗みや略奪などの犯罪には賠償が命じられますが、貧困などの理由で支払えなくなることがしばしばあります。その時、被害者側は「赦す」という言葉を使って賠償請求を諦めるのですが、そこでは日常的に用いられる「赦す」という言葉とは違うルワンダ語が用いられ、含意される内容も違っています。片山さんの報告は、その発見をもとに、紛争後ルワンダで「赦す」ことの意味を検討したものでした。

 

キャンパス内で見つけた大きな切り株。

 

近藤さんも片山さんも、ルワンダ語を自在に操り、農村に長期間住み込んでデータを集めました。ルワンダでの調査は、簡単ではありません。電気も水もない農村に長く暮らすことはもちろんきついことですが、それ以上に精神的なきつさが大変です。人々の暮らしや社会を知ろうとすれば、ジェノサイドの経験について知ることが避けられませんが、それは人々の機微に触れる問題であり、そのため住民との関係づくりがとても難しいのです。調査する者とされる者との関係は常に緊張をはらんでいますが、ルワンダの場合はそれがとりわけ先鋭化した形で現れます。

 

若葉で美しい銀杏並木

 

二人とも、長期調査では大変な苦労があったと思います。それを反映して、いずれの発表も素晴らしいものでした。日本のルワンダ研究にも着実に新しい世代が育ってきているわけで、とても喜ばしいことです。旧世代の私としては、これら新世代から勉強させてもらいつつ、もう少しルワンダのことを考えていきたいと思っています。

 

クラウドファンディング「紛争を乗り越えて。ルワンダの大学から日本へ留学生を招こう」はこちら。
https://readyfor.jp/projects/asc-piass

 

 

 

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