こんにちは!
ケニア西部のビクトリア湖に浮かぶムファンガノ島に滞在中の熊谷拓己(@nakano235_tk)と申します。
僕が活動を見学させてもらっているEkialo Kionaというセンターで働く現地のケニア人を紹介させていただきたく、寄稿させていただきました。
今回はケニアにおける深刻な問題のひとつであるHIV/AIDSに取り組む人に取材させていただきました。
- 自分のコミュニティをよくしようとする熱意
- 外部から来た人々が援助をするということが現地の人にとってどういうことを意味するのか
特にこの2点を、記事を通して知っていただければと思います!
という方は、自分がどんな人のために、あるいはどんな人と一緒に働きたいのかというインサイトを得るきっかけに。
という方は、それまでの「途上国」というイメージに今までと違った色がつき、他のメディアや記事では得られない多様なイメージをお届けできればと思います。
この記事の目次
ムファンガノ島はどんなところ?
今回紹介させていただくムファンガノ島は、ケニア西部・ビクトリア湖に浮かぶ大きさ約69㎢ほどの島です。
人口統計は見る資料によってばらつきがありますが、20,000-25,000人程度の人口規模にあります。
雄大な自然に囲まれ、黄色や青、オレンジ色の彩り豊かな鳥や、1mは優に越える大きなトカゲ、カバ、ワニなど、日本では野生で見ることのできない生き物がたくさん生息しています。
ちょっと見にくいですが、色とりどりの鳥たちが飛び交います!
運が良ければカメレオンも見つかるかも...
HIV/AIDSとナイルパーチ
ムファンガノ島の大きな産業として、漁業があげられます。
植民地時代にビクトリア湖へイギリスによって持ち込まれたナイルパーチは漁獲の対象として大きな利益を挙げ、たくさんの人々を湖へと駆り立てた一方で、ナイルパーチによる生態系の破壊や、HIV/AIDSの流行という負の側面も産み出してしまったこともまた事実です。
網漁で収穫されるナイルパーチ
一攫千金を狙った人々はビクトリア湖に眠るたくさんのナイルパーチという宝を求めて漁業へ繰り出しました。
彼らのほとんどは男性で、得た利益を元手に、sex-for-fishと呼ばれる買春が引き起こされることとなりました。
sex-for-fishとは、文字通り魚を求める女性が料金を体で支払うという取引の方法です。
この島では食糧の供給は必ずしも安定しているわけではない上、お金のない家庭ではこうした体での取引が起こらざるを得ない状況となっています。
その結果、ムファンガノ島の位置するホーマベイカウンティ、あるいはビクトリア湖周辺のエリアはHIVの流行度が地図を見ても一目瞭然で高いことがわかります。
カウンティ(ケニアの地方区分システム)別のHIV流行度。左下の赤い地域がビクトリア湖周辺。
※National AIDS Council, KENYA AIDS RESPONSE PROGRESS REPORT 2018より抜粋。
現地で頑張る人達を知って欲しい
こうした日本向けのメディアだと、海外で頑張る日本人にスポットライトがよく当たりますが、現地の人にはなかなか注目がいかなかったのではないかと思います。
現地の課題に取り組む現地の人々の働く姿を、熱意を伝えることを通して、世の中に広まった途上国=貧しいといったネガティブなイメージだけでなく、「逆境に負けず立ち向かう途上国」というポジティブな側面も日本の皆さんに知ってもらいたい!という思いから取材を始めました。
Ekialo Kionaセンターとは?
ーベナッドさん、今日はお忙しい中時間をいただきありがとうございます。最初に、自己紹介をお願いします。
こちらこそありがとうございます。まず最初に、自己紹介から。現在EKセンターで研究・コミュニティヘルスケア部門でマネージャーとして働いています、Gor Benad Umahです。
ーここEKセンターの簡単な活動紹介、いつ、どんな目的で建てられたのかなど教えていただけますか。
EKセンターはEkialo Kionaの略で、この地域一体の少数民族のスバ族の言葉で‘Whole World’を意味しています。このセンターはケニア政府に登録されたCommunity Based Organization(CBO)で、Organic Health ResponseというアメリカのNGOから支援を受けて設立されました。現在も彼らが資金を調達し、私たちは現場でその資金をもとに事業を動かしています。
私の働く保健部門では、様々なプロジェクトを回していますが、HIV/AIDSテストのためのCyber Voluntry Counseling and Testing(CVCT)というサービスの提供がそもそもこのセンターを始めることになったきっかけとなっています。EKセンターをWiFiやネットを使える環境として住民に使ってもらうことと引き換えに、HIV/AIDSのテストを受けてもらい、会員として登録してもらうといったシステムになっています。
住民にとってテストを受けることはスティグマ(特定の病気や特性によってコミュニティから排斥されたり、差別されたりすること。)に苦しむ可能性もありますが、「ネットを利用する」という口実があればスティグマを減らせますし、テストは徹底した守秘義務のもとで行われます。HIV/AIDSに立ち向かうには自分自身が陽性か陰性かを知ることがまず始まりですから、感染を防ぐためには非常に重要なことです。
ーお話を聞く限りだと、HIV/AIDSに特に注力している様子です。この地域のHIV流行度はケニアの中でも非常に高いものとなっていますが、このEKセンターができる前と後を島の状況を比べてみるとどうですか?
ひとつ付け足しておきたいのが、EKセンターはHIV/AIDSのためだけに設立された場所ではなく、地域の保健センターとして他にも栄養指導や、急患、出産間近の女性を本島に送り届ける緊急ボートといった保健サービスも提供しているということです。プロジェクトを始めるとき、調査の結果HIV/AIDSが特に深刻といった状況もあって、HIV/AIDSという問題に取り組んでいます。
質問に答えると、私たちの活動拠点である島の東側においてはスティグマの減少という点においては劇的な変化をもたらせたと確信しています。
私たちの活動によって、HIV患者が前向きに陽性であってもステータスを公表できるようになりました。こうしたスティグマからの解放は、例えば患者がHIVの治療を受けるときスティグマに苦しみ適切な治療を受けられなくなり、亡くなってしまうケースを回避できるといったように、命を救うことにも繋がります。
地域住民からの「期待」とどう向き合うか
ースティグマの減少という点においては、大きな役割を果たしたということですね。実際のプログラムにおいては、どのようにそうしたレクチャーを行ったのですか?
マイクロクリニックと呼ばれる手法を用いて行いました。HIV陽性・陰性の方々でひとつのグループを作り、社会的、心理的なサポートを得られるようにレクチャーします。
内容としては、スティグマを減らすこと、HIVがどのように感染し、ウイルスが体に反応し、薬がどのように作用するか、また、治療をどのように維持すべきかなどについても話します。栄養管理であったり、グループ内で社会的なサポートを促すこともプログラムの一部です。
ースティグマという社会的タブーに切り込むことは非常に難しく感じるのですが、どのように人々を動かし、グループを作ったのですか?
まず最初に、この島にある診療所などの医療機関の力を借りて、自分のステータスを公にすることのできないHIV陽性の患者を探すことから始めました。次に、その患者の社会的関係を分析し、誰とどういう関係にあるかを洗い出しました。
そこから協力してくれる人を募ったり、すでに存在する女性グループだったり、農業グループにも協力をお願いして活動を広げていきましたね。確かにこれは非常に難しいことで、スティグマのためにグループに入ることを拒否する人もいました。
別の観点から言えば、新しいプロジェクトを始めるときに住民からたくさんの「期待」を寄せられたことがあります。開発の世界では支援に入るとき、そうしたたくさんの期待を寄せられることは珍しくありません。
ーその期待に関しては、僕も強く感じることがあります。僕がここに来て生活をしているのは、特になにかするというわけではなく、途上国での生活を感じるためだったのですが、一旦外に出ると「ペサ!(金)」と声をかけられたり、手のひらを見せてくれくれというようなしぐさを見せる子どもだったり、ある意味でたくさんの「期待」に遭遇してきました。
しかし、僕はベナッドさんの「期待」の話を聞いたとき少し驚きました。彼らが期待を抱くのは、僕がムズング(白人)だからだと考えていたからです。プロジェクトをはじめるときにはケニア人のベナッドさんですらもそうした期待の眼差しを向けられるのですか?
まず、この地域に限って言えば住民がNGOとCBOの違い※を理解していないことが考えられます。
私たちが活動を行う前、資金力のある大きなNGOがHIV/AIDSに取り組むために活動を行っていました。このNGOはワークショップの参加者に多額のお金を支払って、参加者に来てもらっていました。
私たちはCBOで、資金力もそのNGOほどあるわけではなく、期待に答えられるわけもありません。なので私たちは最初にそこの誤解を解き、抱いている期待を無くしてもらうことに尽力しました。
もうひとつは、たとえ私たちがケニア人だったとしても、活動をともに行うのは外国の人々であり、彼らからもらったお金を私たちが持っていると住民は思っているのです。期待の根元はこうした部分にあると思います。
私も抱いている期待を無くしてもらうよう努力していますが、現状を見ると、プロジェクトの中で人を動員するには飲み物やご飯、交通費を支給して来てもらうのもしばしばという状況です。
ですが、私たちが注力しなければいけないことはあくまで住民のモチベーションを高めることであり、お金で人を釣るということではありません。
NGOとCBOの違いですが、1番大きな違いは規模です。「CBOは往々にして地域密着型で、その土地固有の問題に取り組んでいるので予算的にも限られている」というのがベナッドさんの主張かと思われます。一方でNGOは国際的に幅広く地域密着というよりかはグローバルに問題に取り組んでいるものを指すようです。他にもCBOは会則や定款がNGOに比べてゆるやかなものが多いなど、色々と違いはありますが、一番大きく、この記事の文脈に沿っている違いは規模感の違いかと思います。
伝統的産婆(Traditional Birth Attendees)を説得して、彼女たちのもとに来る妊婦さんを適切な医療施設へ搬送するためのミーティング。この日は揚げパンとお茶が振る舞われていました。
ーたとえベナッドさんがコミュニティを良くしようと動いても、住民の方はプロジェクトと違う期待を抱いたり、彼らにプロジェクトによって何らかの利益がもたらされると説得しなければいけなかったり、困難の連続のように思えます。
まさにそうですね。住民からの過度な期待は状況を複雑なものにしてしまいます。お金を期待している人に保健の問題をなんとかしようと説得することは非常に難しいです。
話が少し逸れますが、難しさで言うと、プロジェクト対象者の知識や持っている情報の格差を考えざるを得なくなります。教育を受けた人に物事を教えるのは簡単ですが、そうでない人にシンプルに物事を伝えることは難しい。
もうひとつには、文化の問題があります。私たちの文化には、それぞれが感じる社会的タブーというものがあります。既存の文化に新しいものがもたらされるときには、その2つの間に対立が生じるときもあります。
文化の問題との向き合い方
ー外国から来た人たちと働くことが難しいと思ったことはありますか?
ありますが、少しだけです。私たちにステレオタイプを抱いている人たちが問題だと思っています。私たちが汚職や透明性、説明責任に欠ける人々だと思っている人が少なからずいます。
もうひとつは、ちょうど先ほど拓己さんがモノをくれくれとよく言われるようなイメージが、私のように地域の課題を解決しようとしている人々にも広がることが問題だと思っています。たとえば、拓己さんが日本に帰国して、「アフリカの人々は道を歩いていると、ものをくれくれと言ってくる」というイメージを日本の人たちに伝えるとしましょう。おそらくそれを日本の人は信じてしまうと思います。
そして、そうしたステレオタイプがそうでない人にまで広まってしまうことは、私にとっても仕事をする上で非常に大きな困難となっています
アフリカと言っても、一枚岩ではなく、たくさんの多様な人がいる。
先進国からの援助をどう捉えているか
ーこのインタビューは将来日本から途上国を良くしたいと思い働きに来る人たちへのメッセージとして配信する予定です。ベナッドさんは、先進国から来て途上国のために働く人々をどう思いますか?
とてもいいことだと思います。ただ、お金の使い方には気を付けないといけない。誰にお金を渡して、どういった目的で使うのかが重要だと思います。EKセンター設立の時の例のように、お金を渡しても適切な用途で使われるとは限りません。国レベルでも、たとえば日本からケニアに援助するとなって、汚職が起これば建設されるはずの道路は建設されなくなりますよね。
それともうひとつは、自己満足のためだけにやってはいけないということ。外から来た人がやりたいやりたいということを押してきても、持続性に問題があったりしますから。
ーたくさん質問に答えていただきありがとうございます。そろそろ終わりに近づいてきました。少し質問の方向を変えるのですが、仕事をしていてやりがいを感じる瞬間はありますか?
いい質問を聞いてくれましたね!私にとっては、このコミュニティの中でリスペクトされていると感じられることが、何よりのやりがいです。
私がキリスト教の学校にいたときに習った言葉のひとつに「寛容される場所ではなく、祝福される場所にいなさい」という言葉があります。私はこのコミュニティでリスペクトされ、祝福されていると感じるからここにいます。
以前HIV/AIDS啓発のためのサッカー大会を開催したとき、乱闘騒ぎがあり私に電話がかかってきたのですが、その時の電話の私の一言で騒ぎが収まったようで、後日友人に「あれはいったいどうやったんだ!?」と驚かれましたね(笑)。そうした瞬間に私はリスペクトされていると感じます。
もうひとつやりがいを感じるのが、給料をもらって家族を養う喜びを感じるときです。子どもを学校へ行かせることは私の喜びのひとつですし、そうした瞬間にもやりがいを感じます。
ー最後の質問です。ベナッドさんは今、達成したい目標や夢はありますか?
私が今住んでいる場所はムファンガノ島から離れた場所にあるのですが、ここと同じような問題を抱えているので、人を募って自分の団体を設立して、問題解決のために励むことです。そのために、コミュニティへルスかキリスト教の学校へ行きたい。教育を受けることで、自分の設立する団体がよりよく活動していけると信じていますから。
それと、娘を高校へ行かせてあげたいです。そのためにはお金が必要なので、妻が今している仕立て屋のビジネスを大きくしたいということも、私の夢ですね。
ー本当にたくさんの質問に答えていただいてありがとうございました。これからも僕はこのセンターに滞在し続けるので、よろしくお願いします!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
こうした現地で頑張る方たちの生の声を届ける記事をこれからも書いて、皆さんに届けていきたいと思っています。
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